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さて、日付けが変わって26日午前一時、である。
今日は山村教室の第二期テキスト用原稿の締切日。
駆け込みギリギリの人たちが今ごろ貴重な睡眠を削ってガリガリと書いていることでありましょう。

私は珍しく今回は早めに終えてあったので(提出したのは今日だけど)、涼しい顔で応援することができます。
みなさま、頭をギリギリ万力で締め付けられるような感触を味わいながら物語をひねり出してくださいませ。

さて、先日記事に書きました「警察小説競作 鼓動」を読みました。
大沢先生の作品は短編というより掌編と言っていいごくごく短いものでしたが、すすすす、すごい! カッコイイ!
こんな短い物語の中で、旨みとかダシとかブイヨンとかがギュっと濃縮されてる感じ。

読み終わった瞬間にまた冒頭に戻って、続けざまに三回読み返してしまいました。
そうか、小説ってこう書くんだ! と、思ったもののそれをすぐさま身に付けられたら苦労せんわな。
決して多くを語らず、でも厳選された言葉がピシっとあるべきところにある。
私はなんじゃかんじゃと余計なものをいっぱい、無駄な贅肉のようにつけてしまうのでその辺、今後もっともっと精進していかねばならんと思いました。

この本は大沢先生の他にも今野敏さん、白川道さん、永瀬隼人さん、乃南アサさんの警察小説を一冊にまとめたもの。
もちろん他の先生の作品も面白かったのだけども、やはり大沢先生のが出色だったなぁ。
はい、相変わらず理論だった感想が述べられずすみません……。

ところで警察といえば、どうしてお巡りさんは私にむやみやたらと職務質問をかけてくるのでしょうか。
私、ポイ捨てすらしないし電車で妊婦さんに席譲ってみたり、してるんだよ。
その私に、何を血迷ったか「クスリ持ってませんか」などと持ち物検査するなんて……ひどいよ、お巡りさん。
そりゃ、「ほほぅ、私、クスリやってそうな顔ですか」って、絡みたくもなるってもんよ。
人のサニタリーポーチまで開けておいてさ、「ご協力ありがとうございました」って、何それ。
「疑ってすみませんでした」と言えというのだ。まったく、腹立たしい。調教してやろうか!
どうやら私にはカッコイイ警官など書けそうにありません。

「電車の駅を乗り越すくらい熱中できる小説というのは、最高ですね」
山村教室名誉塾長である森村誠一先生のお言葉である。

昨日、久し振りにそれをやってしまった。
ちょうどクライマックスに差し掛かっていたところで、ふと目の端に映る窓の外の光景がいつもと違うことに気付いた。
次いで、目的地の次の駅を告げるアナウンス。
あぁ、しまった。仕事に向かう途中だったのに。

その本というのがもうお読みになった方も多いと思うが、「容疑者?の献身」。
yougisya
直木賞受賞作品だし数々のミステリーベストテンの第一位に据えられているしやたらと絶賛されているし、じゃあ読んでみようかなとミーハー心で買ったのだったが――没頭してしまった。

お陰で仕事には遅刻。
今まで遅刻などしたことのない私が遅れたものだから、皆心配して「どうしたの」と聞いてくれたが、私ときたら、「東野圭吾がさ、すごいんだって、これが。いやぁ、まいったまいった、気付いたら新宿にいるんだよ。最高の気分やわ」などとすっかり興奮してまくしたてるものだからすっかり呆れかえられてしまったことだ。

内容に関しては、まだ読んでない方もいらっしゃるだろうから割愛。
ちなみに私は頭で物を考えられない人だから、分析力というものがない。
だから「ええもんはええ!」という立場でしか本やら映画やらを薦められない。
文庫の後ろについてる解説なんて、絶対書けないタイプだ。
そういうことは頭のいい方々に任せておけばいいと思うので、私があれこれと無理をして言う必要はあるまい。
だけども、私の身体と心が、「これはいい」という信号をビンビン出しまくるんだ。鈍い私の頭がそれに気付くくらいに。

さぶいぼ(トリハダのこと)立った。涙がにじんだ。胸がキュッと引き締まった。
「容疑者?の献身」は、そんな小説。

トリックで泣かせる小説に、初めて出会ったかもしれない。
日常性から少し外れたところを描くミステリーだからこそ、人間を描かないといけない。
泣かせるミステリーが、私は好きだ。

ちなみに私は、ミステリーは書かないし書けない。
だって、頭悪いんだもん♪

坂井希久子

2008年オール讀物新人賞受賞。小説家の端くれのそのまた端くれ。
翼広げて大空にはばたくぞ! と言いつつ、まだたまごには「ひび」くらいしか入っておりません。
それでも、小説が好き。あと、着物も好き。
どちらも奥が深いことでございます。
死ぬまでには、真髄にちょこっとばかし触れたいな。

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