先日の日記でもちと触れた森村誠一文芸展のことを「ブログに書いてくれないか」と、森村御大じきじきに依頼されましたので、ここで書かねば女がすたる、改めて書かせていただきます。
な、なんか緊張するな……。

4月30日から、町田の小田急百貨店8Fにて催されていた森村誠一文芸展も、昨日大盛況のうちに終わったようです。
私と山村教室有志20名が大集合したのは、森村誠一サイン会のあった初日。
先生が長蛇の列を前にひたすらサインペンを走らせている間、我々はゆっくりと展示物を拝見しました。

若かりし日の、まるで役者さんのようにオットコマエな先生のお写真や、直筆生原稿を製本したもの、創作ノート、松本清張、横溝正史による解説の生原稿などなど、食い入るように見つめてしまう。
我々のようなタマゴのために、創作ノートはもっと広げて置いてほしかったなぁ。
平身低頭してお願いしたら、読ませてくれないかしらん、先生。
創作ノートは、作家の混沌とした頭の中を整理するためのものだと私は思っておる。だから人に見せるのはけっこう恥ずかしいものなのだ、少なくとも私は!
でも見たい、見たい、見たい〜っ。
ダメもとでお願いしてみよっと♪
一冊だけ開いて置いてあったノートには、登場人物の相関図が書かれてあった。
あ、こういうの私も書く、と思って意味もなく嬉しくなったことである。

「しかし、生原稿っていうと重みがあっていいよね。我々の世代になると、○○さんの使っていたハードディスクとか、使い込みすぎてアルファベットの表記がはげたキーボードとか、そういうのが展示されるんだろうか」
などと言って教室生と笑い合っていたのだが、何でもかんでもデータにしてしまう昨今、確かに展示しても味気ないものしかないよね。
森村先生愛用のガラスのペン先も、使用済みのものがビンに詰められて残されていた。今までにいくつのペン先を潰してきたのだろうと思うと、まこと味わい深い。

私もなんだか気分が乗らない時や詰まった時は、原稿用紙にまず手書きして、それをパソコンに打ち直している。
データにしちゃったら用済みと、原稿用紙は全て捨ててきたけども、これからは大事に取っておこうっと。メモとかアイデア帳とかも全部。
いつかそいつらが、こういうふうにガラスケースの中に飾られんとも限らない。
などと、大それた決意をしてみる。

サイン会はなかなか人が途切れず、一時間の予定が三十分押しての終了。
近頃、作家のサイン会にはなかなか人が集まらないという。
確かに、「これからサイン会があります」と呼び込みをしている書店員を見たことがある。
そんな中、100人もの人間を集めてしまう先生。かくもファンに愛される作家に、私もなりたひ……。
ファンだけではなく、「町田市の作家」として、市全体が先生をバックアップしている。もうほとんど重要文化財級なのだなぁ。

サイン会の後は先日も書いたとおり、会場裏手の喫茶店で編集者20名との懇親会。
「今はどの出版社も新しい才能を発掘しようと力を注いでいる。この先採算が取れなくて路線変更するかもしれないけども、少なくとも当分はこの姿勢でしょう。だから皆さんにとっては、今はチャンスの時期なんです」
と、編集者Nさんは言ってくださった。

確かに、今ほど多くの新人賞が軒をそろえる時代もなかろう。だからもしかするとまぐれ当たりで受賞はできるかもしれない。
でも、受賞してからが大変に違いない。その年だけでも新人賞受賞者がウヨウヨいるわけなのだから。
やっぱ厳しいですよぅ!

編集者Hさん、「新人賞の応募作を見ていると、梗概に力が入っていない。梗概と、前半5ページの力は大事です」
あの……先日出した応募原稿の梗概、「3枚程度」のところを力入りすぎて4枚半になり、「そのぐらいなら『3枚程度』の範疇!」と決め付けて出しちゃったんですけど……。やっぱり、3枚ちょっとくらいに収めるべきだったのでしょうか。

「本当にこれを書きたくて書いているのか、という作品がある。これが書きたかったんだ! というものを出してほしい」
との編集者Tさんのお言葉に、
「えっ、書きたくないものを書いてることなんてあるんですか!」
とびっくりしていたのはこの4月に教室に入ったばかりのOさん。むしろその驚きが新鮮だった。
長く書くようになってくると、「う〜ん、どうしよう。この路線はダメって言われたしなぁ。前にいいトコまでいったコイツの路線で書くべきかなぁ」などと、つまらぬウケ狙いをしてしまうことがある。その結果、失敗する。そして本当に書きたかったものを見失う。
たとえ「お前の作品など、便所紙以下だ。下水に流れ去ってしまうがいい」と言われたとしても、己を突きつめていかにゃならんのだ。
教室に入ってきた新しい風に、感謝。

もちろん、いつも学ぶことの多い時間を設けてくださる先生には大、大、大感謝である。言葉で言い尽くせるものでも、物で表せるものでもない。
最大のご恩返しは、もちろんデビューすること。そして人気作家になること。いずれ森村誠一を追い抜くこと!
その日までは、口で「今日はありがとうございました」と腰を折る度、こんなことで先生に報いられるものか! と虚しくなるばかり。
作家として世に出たときこそ、本当の「ありがとうございます」が言えると思っている。
そしていつか、先生の文庫の解説書きます!! 

その日お会いした編集者さんの何人かは、「山村教室の熱気はすごい」と言ってくださった。
でもね、でもね、内に秘めたものはこんなもんじゃないんだよ。
二次会ではいっつも下ネタで笑ってるけどね、ドロドロした、熱くて暗くて生臭いものを、皆抱えてる。
今はまだ腹の底でブスブス言ってるだけだけど、いつか表面に流れ出て読む人の心まで侵せるようになるだろう。
だからその時は、よろしくお願いします!

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前回のブログを見て、是非文芸展を拝見したいなぁと思っていたのですが、土曜日まで仕事でいけませんでした。残念。

kikuさんのブログをずっと読んでいながら、森村誠一先生の作品をひとつも読んだことないので、いいかげん読まないとなぁ・・・。お勧めとかありますか?森村初心者ならこれ!とか。

今の私はというと、あんまし本読む時間がないのですが、一旦東野圭吾先生から離れ、森博嗣先生を読んでいます。『すべてがFになる』とか。

最近、王様のブランチとかで作家さんの仕事風景とかを時々紹介していることがあるけれど、殆ど皆PCでしたね。時代でしょうか。メールで直ぐにデータ送れるし。

森村先生や川端康成、芥川龍之介とかのレベルまで達すれば、PCを使っていても、本人が使っていたPCとして文化財になるんでしょうね。本人が編集者に送ったメールとか。

鉛筆とかペンとか原稿が重みのあると感じるのは、PCやワープロができてある意味便利になったからだと思います。今の新人世代が将来超大物になっていたら、そのときはもっと便利になっていて、「新人のころは、まだPCでキーボードバシバシ叩いてたなぁ〜…」とかいうことになるでしょう。たぶん。

要は作家本人が、kikuさんが超大物になればいいんですよ。そしたら、今使用しているPCとか鞭(?)がどこぞの町で飾られるんですよ。こんな壁紙使ってました、とか。

今のうちに当たり障りのない壁紙にしておくことを強くお勧めいたします。

>つきいちさん
大丈夫、壁紙は今、八景島シーパラダイスで撮ったクラゲですから。
クラゲ、見てると癒されるんですよね〜。
火事や天災の時は、何をおいてもノートPCを持って逃げます!
森村先生の著書は、まずはやはり「人間の証明」から入るといいかと思います。切ないですよ〜。

あらすじのこと、梗概っていうんですね。

畑は違いますが研究費や論文も、要旨や表題が審査委員が書類を手にとるかどうかの決め手とのこと。科学者は内容第一と若い頃は息巻いてたけど、膨大な数の審査を手伝う側になると、要旨の熱意というのも実感します。

安藤忠雄さんの「連戦連敗」って本、読んだんですが、コンペに追われる建築家も同じなんですね。審査される側の僕はいまだに連戦連敗だし、指導した院生が一人立ちすると競争相手になるんですもん。めげずに続けようって思います。

学会もサロン的仲良しクラブの側面もあります。でも現役の限り互いにライバルなのは、医者や研究者も同様。会議や懇親会でも劣等感、ジェラシー、優越感など、腹の中ドロドロしてますね(笑)。でもサロン的要素から生まれるコラボレーションもありますから、サロンでなんで悪いと思います。

編集者自身も同業他社あるいは同業同社?同士、いろいろあるんだろうな、、、

>カイロのkazu
ええ、編集者も同業他社同士、色々とあるんじゃないかなぁと思います。
論文でもやっぱり要旨って大事なんですね。
熱意がこもっているかどうかが分かる、かぁ。これはかなり貴重なご意見!
自分の作品を読ませたいという熱意、おざなりな梗概じゃ伝わりませんもんね。
畑は違えど、いい勉強です。

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坂井希久子

2008年オール讀物新人賞受賞。小説家の端くれのそのまた端くれ。
翼広げて大空にはばたくぞ! と言いつつ、まだたまごには「ひび」くらいしか入っておりません。
それでも、小説が好き。あと、着物も好き。
どちらも奥が深いことでございます。
死ぬまでには、真髄にちょこっとばかし触れたいな。

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