高野真理子の扉を開けて 第7回バトン

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「高野真理子の扉を開けて  第7回 バトン」

真冬なのにホールの中も外も人であふれていた。
ジャケットを着た男性たちが大部分を占める会場に、人員整理をする係の声が響く。
空席が見つからないほどの大きなホールの檀上で、受賞者が発表される。
名前を呼ばれるのはたった一人。
その人はどれだけの努力をはらって、その光の中に立ったのだろうか。

お久しぶりです。高野真理子です。
気が付けば平成30年も半年が過ぎ、早くも後半戦に突入しています。
冬のオリンピック、サッカーワールドカップ、そして台風ばかりが通過している今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?

今年の冬にまた一人、山村教室よりデビューされた方が出ました!

この波に乗りたい受講生の方は沢山いらっしゃると思います。
教室の先生から、その方の授賞式でこれからプロ作家への階段を駆け上っていく姿を見届けると良い。受賞の場で同じ空気に触れることで、何かつかめるかもしれないとの言葉もあり、高野も仕事を終え、その場にかけつけました。

授賞式は賞金等の目録受け渡しから始まり、選考委員と受賞者の座談会になりました。
受賞者の方のあまりの弁舌の見事さや、その努力の様子を間近で見てきた受賞者所縁の方々からのコメントの温かさに、高野はほうっと聞き入っていました。
そして、ああやってコメントを聞く立場になりたいと思いました。
檀上から眺めるホールの景色はどのように見えるのだろうと考えると、祝福と羨望と、ほんの少しの嫉妬と焦りが高野の胸に去来しました。

作家デビューはたった一人でゴールを目指します。
コツコツと書き溜めた作品を応募し、落ちればまた一からやり直します。
心の持ちようひとつでものすごく筆が進んだり、逆に全く書けなくなったりすることもあります。
そんな時、ふとリレーを思い出しました。
バトンを次から次へとアンカーへ向かって渡して、ゴールを目指す……。
リレーはみんなで気持ちをつないで、ゴールを目指す競技です。
けれど、作家は自分で自分を鼓舞しながら走り続けます。
すごく孤独なリレーになります。
作家になりたいという願いをバトンにたとえるのなら、それをつないでいくのは何だろうと考えました。
高野はそのバトンを信じて離さない決意だと思いました。

初めて作品を書きあげた時の気持ち、応募して落ちた時や、面白い話だったと言われた時の気持ち、そして作家になりたいと願い、そういう想い全てでバトンを作り磨き上げていく。
決して想いを古いままにしないで、今の自分へ新しい「今日」のバトンを手渡していく。
苦しくてバトンを落としてしまうことも、そのまま置いて逃げ出したいと思うこともたくさんあります。
でも、そんな時に教室の先生や仲間、周囲の人々が自分にヒントや刺激を与えてくれて、しぼんだ気持ちをふくらましてくれます。
バトンは自分一人で作り上げていくものではないと気付きます。
そしてまた、はるか先に自分の未来が見えると信じて次の一歩を踏み出す。
もちろん、その手に今日のバトンを握りしめて……。

気付けばホールは明るくなり、みなさんが退場を始めていました。
ここに足を運ぶことによって、何かつかめるかもと先生が仰っていた通り、刺激という名のバトンを受賞者から手渡された気がしました。
このバトンをどうするかはその人次第。
高野は見えないバトンをしっかり受け取って、小さくてもいいからまた次の新しい自分へと一歩踏み出そうと思いました。
それでは、本日のところはこのへんで。
機会がありましたら、またお会いしましょう。
(了)

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