桜の樹の下には、死体が埋まっている。

そう言ったのは梶井基次郎?
それはとてもとても、甘美な空想だね。
腐り、食われ、分解され、吸収され、そして血の色をずっとずっと薄めた色の、
淡いピンクの花になる。
そうなりゃいいのに。

ばあさんはちゃんと火葬されて、
カラッカラのカルシウムになってから、墓の下に埋められた。

4月2日、ばあさんが息を引き取ったのだ。
享年、87歳。

桜が満開で、葬儀場から火葬場までの景色がうそみたいに綺麗。
あんなに胸苦しいほど綺麗な桜、初めてだった。
べつに死体、埋まってないのに。

三歳になったばかりの甥っ子草太くんは、
もちろんまだ「死」というものが理解できない。
焼却炉に吸い込まれてゆく棺に向かって、
「おばあちゃん、バイバイ」って手を振ったものの、
骨上げのとき、骨だけを載せて出てきた台を見てびっくりしたようで、
「あれ、おばあちゃんどこよ? なんか、へんなことになってしもてるわ」
って大声で呟き、姉に大慌てで連れ出されていた。
悲しい場なのに、思わず笑いそうだったよ。

告別式の翌日、
桜があまりに綺麗だからと、家族みんなでお弁当持ってお花見に。
もちろん、おばあちゃんも一緒。写真だけど。
芝生の上で草太くんがおおはしゃぎで、
大人たちも大笑いしながら転げまわった。
服と髪を芝だらけにしながら。

後で姉から来たメール。
「お花見楽しかったよ。おかげで桜が満開になる季節は、つめたく悲しい季節じゃなく、あたたかく悲しい季節になりそうです。ありがとう」

うん。でもね、
あたたかく悲しい思い出の方が、ずっとずっと涙を誘う。
この先、満開の桜を見るたびに私は、
鼻の奥をツンってさせながら、笑うんだろうな。

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3年前にじいちゃんが死んで、
部屋で寝かされているじいちゃんを見たときは、
ホントに起きるんじゃねぇのか?と思うくらいに実感も沸かなかったけれど、
火葬場で骨だけになった姿を見たときは、もうホントに会えないんだな、と思いました。
悲しいというか、もうどうにもならない絶望感というか。
最後を看取ってあげられなかっただけに、今でも思い出すとやりきれない気持ちになります。

写真のおばあちゃん、桜を見ながら笑っていたことでしょう。うちのじいちゃんは、笑ってるかなぁ。

おばあちゃん Kikuさんが原稿出すまで待っててくれたんでしょうね 

ばあちゃんっ子だった小生 30年前に看取った今でも 時々ぽぉっと脳裏に表れ 傍に来てくれます
桜舞う下を通ると看取った患者さん達に俺ももそのうち往くからねと感じるという恩師の気持ち 40代後半になってしみじみ わかるようになりました。。 
いろんな桜あるとおもいます Kikuさん どうぞご自分お大事に、、、合掌

桜の香りにさそわれたわけではありません。
妖艶な、女王に誘われたのかもしれないけど。

祖母が、死んだときの事を思い出しました。
有り難うございます。

>つきいちさん
私も最期を看取れませんでした。遠くに住んでると、間に合わないことだらけ……。ばあちゃんにはいっぱいお世話になったのになぁ。
でもばあちゃん、最期はかなり頑張ったそうです。
心電図が一直線を描き、医師が死亡宣告してから息を吹き返す、というのを三回くらい繰り返したらしい。
さすがウチのばあさんだ、しぶとい!!
私も見習って、このくらいしぶとく生きていこうと思います。

>カイロのkazu
ウチのばあちゃんは私が小説書いていることをよく分かっていなかったので、原稿が仕上がるのを待っててくれたわけではないと思う……。
以前ばあちゃんを50倍くらい美化した短編を書いて、ある賞の最終選考まで残ったのね。
で、そのことを報告しても、曖昧に「ああ、そうかえ」とうなずくだけでした。
ここ4、5年は、すっかりボケちゃってたからなぁ。

桜って、見る人や時期によっていろんな思いがよぎるものなんですね。
私は桜が咲いたの散ったのと一喜一憂できる日本人が好きです。

>somulierさん
いえいえ、べつにお礼を言われるほどのことでは……。
亡くなった方のことは、たまぁに思い出してしみじみするのが何よりの供養ではないかと思います。
私の場合、祖母が旅立ったのは桜の時期だし母は終戦記念日だし、なんだかしみじみしやすい時期です(笑)

本の数十秒前、このブログの最初の頃の東京タワーを書いたものを読みました。
本当は、まだ、読んでいるで、全部読めませんでした。

坂井さん、
あんなに明るくて、いつも甥っ子がかわいいという事を話している人が、ねえ! 素敵に育たれてお母さまも喜んでいらっしゃるだろうな。

ゆっくりと、読みます。
勇気をいっぱい分けていただいています。
いつもありがとうございます。

>somulierさん
こちらこそありがとうございます!
母は、ええ女でしたよ。
だから姉も私もええ子になったし、甥っ子もかわいく育ってるのです(笑)
母が他界してからも、母から学ぶことがものすご〜くたくさんありました。
今では母親となった姉を見ていて、さらに己の母の愛に気づかされたりして。
きっと、まだまだ母から学ぶことでしょう。
でも母が生きてたら激怒されそうな人生送ってます……。

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坂井希久子

2008年オール讀物新人賞受賞。小説家の端くれのそのまた端くれ。
翼広げて大空にはばたくぞ! と言いつつ、まだたまごには「ひび」くらいしか入っておりません。
それでも、小説が好き。あと、着物も好き。
どちらも奥が深いことでございます。
死ぬまでには、真髄にちょこっとばかし触れたいな。

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