夏だ。

当たり前だが暑い。

ああ、暑い……。でも、これが好き。

真昼間からビール片手にアンビ聴きながらほけ~っとしていたい。

 

ダメだって。小説書かねば。

しかし、頭をよぎるのは享楽的なことばかり。

東南アジアのどうしようもないお父さんたちみたいに、木陰で酔っ払っていたい。

だから、ダメだって……。

 

閑話休題。

 

俳優でありマジシャンでありコメディアンであるマメ山田さんから、

「靖国神社の『みたままつり』でかかる見世物小屋に出ます」と、ご連絡をいただいた。

見世物小屋!

なんて、怪しく妖しい響き。

行かずにいられいでか!

 

ということで、昨日行って来ました。

 

夜店でビールと焼きそばと広島焼きをチャージし、神社にお参りもすませ、いざ!

初、見世物小屋。

呼び込みの声を聞きつけて近寄ってみれば、えっ並んでる!

並んでいなくとも、小屋の外観を写メろうとする人々でごったがえしていた。

みんな、若者。このうさんくささが、かえって新しいらしい。

 

順番が来て、すし詰め状態の小屋に入る。中もやはり、若者だらけ。

人々の熱気と体臭が充満する中、ヘビ女小雪大夫が登場。

シマヘビを、生きたまま食らうという悪食披露である。

「今年は蛇が高くて一匹五千円もするんです。だから一匹を何回かに分けて食べていますが、この回に当たったお客さんはラッキー。頭つきの蛇の番ですよ~」と、口上人。

おお。それはラッキーだ。どうせならピチピチな蛇が見たい。

美人の小雪大夫がこれから食うシマヘビを持って、本物である証拠に触らせてくれる。ナデナデ。

たしかに、生きている。可愛い蛇だ。

その蛇を口にくわえて……いった!

ひゃ~。ブチッて音がしたよ。内臓がびろろ~んって出てるよ。わぁ~生血一気飲み!

同行した子は食ったばかりの焼きそばをリバースしそうになったらしい。

私は、寄生虫は大丈夫なんだろうかという心配をしておった。

魚すら、生に丸ごとかぶりつくのは嫌だもんなぁ。

「見逃した方も大丈夫。このお姉さん、二十分に一回蛇食いますからね」

食いすぎですよ……。

 

続いて、シベリアの奥地から捕獲されてきたという原人。

体に黒いペンキを塗りたくり、襤褸を張り付けた三人の男女が出てくる。

その人たちがドライアイスを食べ、「強」で回る扇風機を舌で止め……。

って、電撃ネットワークか~い!

 

次は、中国の奥地の少数民族。

体を薄汚く汚してあり、民族衣装っぽいものを着ている。

そのうち一人の女性が、火の神様を呼んで火を食らうという。

トランス状態に入って暴れる女性。なんかもう、乳とかパンツとか見えまくり。

ろうそくの火を口に入れては出し、を本数を増やしながら繰り返し、最後に火を吹いて終わり。

 

はい、お次。

病院から連れ出してきたという「猫インフルエンザ」患者。

体中に、汚い色のペンキをまだらにぶちまけてある。

なんでみんな、基本的に汚れてるの……。

病に苦しみながら彼は一本の鎖を取り出し。

鼻に入れて、口から出す。

なんかもう、猫インフルエンザ全然関係ないじゃん……。

 

最後はマメ山田さんのマジックショー。

さすがにエンターティナーとして年期が入っておられるので、安心して楽しめた。

その小さな手のどこにネタを隠すのか、さっぱり分からない。

見世物小屋はぐるぐる回し。観たところから観たところまで。

再び小雪大夫が出てきたので一巡したようだ。我々は退散。

 

「なんか、いろんな意味ですごかったね」

と、友人と肩を並べて歩く。

「うん。昔の子供は、本当に原人とか少数民族とか信じて観てたのかな」

「さすがにあれじゃ、だませないんじゃない?」

「だよね」

顔を見合わせて笑った。

「でも、面白かったね」

 

小屋の中も、異様な盛り上がりだった。

クオリティーの高いショービズに慣れているはずの今時の若者たちが、手を叩いて喜んでいたのだ。

祭りの夜の暗がりには、魔物が潜んでいる。

みんなその瘴気に当てられていたのだろうか。

もしかするとあの小屋自体が、魔物の胎内だったのかもしれない。

 

隣に、お化け屋敷もあった。

「懐かしいね」

チープなつくりなのに、子供の頃は父と母に手を繋いでもらわなければ一歩も前に進めなかった。

「ここも、入ろっか」

 

魔物たちが今もまだひっそりと息をひそめている、夏の夜。

 

 

 

 

 

 

コメント & トラックバック

ウチだと色んな誘惑があって、仕事するのって大変ですよね。。
関東は梅雨が明けましたし、夏祭りですね。
蛇を生かぶりってのは、夏でもあんまり見たくないような。。
当方は今週末に調布花火大会に行く予定です。
「行く予定」といっても、会場まで歩いていけるので、大した移動ではないのですが。。
今日、芥川賞,直木賞の受賞作品が決まったようですね。
直木賞候補の「秋月記」は、既に読んでいた作品だったので、ちょっとビックリ。
(今日になって、直木賞候補になっていることを初めて知りました。。)
なかなか本が売れない時代なようでして、この賞を機に受賞作や候補作を読む人が増えると良いですね。
kikuセンセーもいつかは、芥川賞,直木賞ですね。
自分でもよく解りませんが、イメージ的には、kikuセンセーは、芥川賞が合ってるかなぁ。

見世物小屋、私も大好きであります。
如何わしいのが好きです。
子供の頃は、看板のあの独特なタッチの絵を見るだけで興奮しておりました(性的な意味じゃなく!)
見世物小屋について書かれた本を読んで嫌な気分になって以来、行っておりませんが。
そういえばエレファントマンって映画ありましたね・・
衝撃的でありました。
私も本日祭りへと突撃したいと思っておりましたが予定変更
プールにでも行って純粋な目の保養をしてきます
余談ではありますが黄緑色の水着が好きです!!

>ひ~ろさん
花火大会の会場が近いというのはいいですね。
家の窓から見えたりすると混雑にもまれなくっていいなぁ、と思いますが、やっぱりお祭り気分を味わうにはあの雑踏の中にあらねば! 楽しんで来てくださいね。
芥川賞・直木賞決まりましたね。最近一年がめちゃめちゃ早い上、この賞ったら年二回もあるものだから、「えっ! もう???」と、いつも驚かされます。
いつか取れたらいいなぁ。私自身は純文、エンタメあまり意識せず書いていますが、一応エンタメから出ているのでどちらかといえば直木賞ではないかと。
ま、賞よりも一作一作に魂こめて書いてゆくのが大事。暑くて溶けそうだけど、一生懸命字を書きます。

〉悶次郎さん
子供の頃から見てましたか。私は四年前くらいまで、見世物小屋がまだ興業しているということすら知りませんでした。父母の時代で終わったものと。子供の時に見ていれば、どう映ったかしら、あれ。案外、今よりずっと冷めた目で見てそう……。
エレファントマン、そういえば観てないや。衝撃ですか。観てみます。
今日も暑いですね。プールに入る前は、しっかりストレッチしてください。体のある一部分だけは、不必要に伸ばさぬよう。お気をつけて。

文藝春秋サイトの発売一覧に載ってますね7月29日発売と。
表紙写真もすごいなあ。下からのきわどいアングル。
ハイヒールで踏みつけにしている感じはSMっぽさを表現したかったのかな。いいですね。書店で目立ちそうだ。
同時受賞の袖木さんの発売予定がありませんでしたが、同回で受賞しても、同時に出版されるわけではないのだなと、驚きました。
小説すばるなどだと同時受賞だと、二冊同時発売で、新聞広告などにも両方宣伝してあったりするというのに。

kazuです。
夏祭りの屋台や見世物小屋、、いつになっても少しレトロな感じがあって、いいですよね。
 見世物小屋の雰囲気、小生も大好きです。靖国神社とは反対側の神楽坂にある毘沙門天も、そろそろお祭りだったと思います。以前、この界隈に勤めていたので、屋台の焼きそばとか生ビールでほろ酔い加減となりながらお祭りをからかった後、本格的に飲みだしてました。
 
 ただKiku先生のおっしゃるとおり、ヘビの生食いは寄生虫がいっぱいいそうです。生血もせめてアルコールで割って寄生虫を殺して?飲むべきなんでしょうね。。(ただ個人的にはヘビだけは昔からだめなので、いくらMの小生でも、食べるどころか触れることすらできないと思います(笑)
 B社のホームページで、kiku先生のご本、予告の宣伝出てましたね。発売日が楽しみです。
 
 ほんとに暑い毎日ですが、どうぞご自愛ください。
 
 

見世物小屋!
kikuしゃんの記事読んでるうちに、うっと逆流するものを覚えましたよ。
プチッだぁ、内臓がびろろ~んだぁ。勘弁してちょーだい。
あれはまだ3歳ごろ、夏休み千葉の親戚の家に泊まりがけでいっていたときのこと。「サーカス」が来ているとかで、連れて行かれました。
ほかの記憶は定かではないのですが、「へび女」は忘れようがない。
食べはしなかったよ、そのへび女は。長~い髪に白塗りの顔、唇だけが真っ赤か。ほんでもって、鼻からへびを入れて口から出し、両端をひっぱって見せるのでした。
3歳のわたし、盛大にリバースいたしました。
うん十年ぶりに思い出しちゃったよ。
酒でリバースしたことはないが、考え過ぎや、想像し過ぎで、いまだに頻繁にリバースする。
ここは、しっかりコメントまでして、早く忘れることにしようと思ったんだ。だはは。
長くてなってすんまへん^^;
近い将来、直木賞受賞の報せを待ってま~す☆

本のタイトルはどうして「コイカツ」なんですか 「コイカツ」っていう題名の短編が入っているのかな 私は「男と女の腹の虫」か「虫のいどころ」の方が小説のタイトルって感じでいいと思ったな。
恋活って今はやってる造語だけど、十年後に古い単語になってなければいいですね。

今回の話題は正直、辛いものがありました。
「サーカス小屋に売るよ!」
「見せ物小屋に売るよ!」
と、親が子供を脅す時代の空気がまだワタシの幼い頃にはあった時分です。町の神社のお祭りのには決まって見せ物小屋もありました。男のかん高い声が拡声器をとおして、
「おーれ、ほーれ、おれおれおれおれおれ!親の因果が子にたたり、牛女だよ!だるま女だ!つぎはろくろっ首だ!……。お代は後だよ、嘘だと思ったら払わなくていいよ!」
小屋の前で客を呼んでいる。
好奇心半分、怖いもの見たさ半分で中に入る。牛女は膝の関節が逆になってる人が首の縄を引かれて四つん這いに歩いている。だるま女は腕も脚もない人が舞台の中央で口にくわえた筆で字を書いてみせている……。
そこには何か辛いものがありました。すなわち、口減らしで売られてきた人たちが。そう農村では働けないからと売られて来た身体障害者の人々を我々は目の当たりにしていたのです。舞台には人生の縮図とでもいったらいいのか、その人たちの宿命的な人生が充満していた。
当時、小学生だったワタシは支払い場にならぶ少しおっかないお兄さんに見物料を渡して出ると、その後は脱力感やら空虚な感覚に見舞われてしまって、祭りどころではなくなったことを思い出します。
今回の希久子さんが観られた見せ物小屋は、そんなワタシの印象からすると“奇人変人ショー”ではないかと。
見せ物小屋って昔はもっと差別的で寂しさの中にあった気がします。

>masaさん
あ、ホントだ。masaさんのご指摘で初めて知りました。載ってますね(笑)
踏みつけにしている感じは、SMのようでいてSMではありません。中身を読んでいただければ、どうしてあんな表紙だったのか分かっていただけるかと。
小説すばるの場合、長編の賞です。受賞作がそのまま単行本化できるのですね。でもオールの場合は短編ですから、作品がたまらないと本にならない。だから同時受賞であっても同時発売にはならないのです。私の場合、今まで書きためていた不遇の作品たちがいたもので、少し早かったんですよ。
ちなみに柚木さん、今月発売のオールで同時掲載です。

〉kazuさん
ああ、そうだ。ヘビは苦手とおっしゃっていましたね。以前も申し上げたように、B型ヘビ年の私です。
私の場合、踊り食いは嫌ですがきちんと料理して出されれば食べられるかもしれません。ワニのしゃぶしゃぶなら食べたことがあるんですけどもね。同じは虫類だからきっと平気でしょう。
宣伝、出ていましたね。今日見本が手元に届きました。帯もついているので、おー、なんだか本っぽい、などと思っておりました。書店に並べば、少なくとも目立つでしょう。
あまり暑いとみんな活字を読むどころではなくなるだろうから、発売前後はちょこっと涼しくなってほしいものです。

あ、幼児期のトラウマに触れてしまってすみません。じゃあもしかして、今もヘビ自体苦手ですか?どちらかというと、ヘビよりも白塗りのへび女のほうが気持ち悪いような……。
私は酒でリバースしたことは数あれど、想像でリバースしたことはございませぬ。想像力が貧困だから……ダメじゃん! 
直木賞をとるために、ヘビでリバースできるくらい想像力をたくましくします。でもヘビって、かわいいんだよな……食べられちゃったのはちょっとかわいそうだった。

〉せりあさん
短編のタイトルとは関係ございませんよ。どうしてあのタイトルかというと、まぁオトナの事情とかいろいろ絡みつつ決まった、という感じです。
十年後どころか、二年後には古語になってますよ。そんときゃそん時、ですよ(笑)

〉キーモさん
うん、昔の時代の見世物小屋をご存じの方がいれば、こういうコメントがくるのだろうなと思っていました。
かつての見世物小屋とは、差別的で哀しく、恐ろしくておぞましい。それでも暗い淵を覗き込んでしまう子供心。明治から昭和初期にかけての文学作品に、そういう雰囲気はよく描かれていますよね。障害を生まれ持った方だけでなくさらわれた子供が、手足を切られてだるまにされていたという話も聞きます。
それに比べりゃ、明るくなったのでしょうね。ヘビ食いちぎってるのを見て、ぎゃーぎゃー言ってればいいんですもん。かといっていい時代になった、などと簡単に片付けるわけにはいきません。昔よりは福祉もずいぶんよくなり、障害のある方も人間的に生きられる世の中になったかもしれません。でもメディアから数々の差別語が消えていったのと同じくして、彼らの存在を見て見ぬふりしていませんか。そこにいるのにいない人、それも逆差別的で寂しいことですね。

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坂井希久子

2008年オール讀物新人賞受賞。小説家の端くれのそのまた端くれ。
翼広げて大空にはばたくぞ! と言いつつ、まだたまごには「ひび」くらいしか入っておりません。
それでも、小説が好き。あと、着物も好き。
どちらも奥が深いことでございます。
死ぬまでには、真髄にちょこっとばかし触れたいな。

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