コーヒーショップチェーンのとあるベローチェにて落涙した午後の九時。
涙ぐむ、なんてレベルでなくって、目頭にハンカチを当てて鼻をスンスンする非常事態。
それを引き起こしたのがたった一冊の本だなんて、幸せすぎる。そして悔しすぎる。

前加奈子さんの「さくら」、こいつが犯人です。
さくら

五人と一匹の家族のお話。
とっても薄っぺらく響くのを覚悟で言わせてもらうと、「愛」が描かれているのです。

切なくて、でも体中がほんわりとした温かいものに満たされて、心がきゅんって締まる。
その「きゅん」の度合いがまた絶妙で、引き絞られる感じじゃないんだな。酸っぱいものを食べた時に頬がきゅんと締まる、そんな「きゅん」なんだ。

読み終わった瞬間にすぐにまた「泣かせどころ」に戻ってもう一度読んで、やっぱりまた泣いた。
きっと近いうちに全部を読み直して、そしてまた泣いちゃうんだろうな。
幸せな気持ちで泣けるものに、私は弱いのだ。

「愛」
言葉に出すにはこっぱずかしくて、でもいざ口にしてしまうと陳腐に落ちる。
そもそもこんな曖昧で単純で複雑なほわほわしたものに「愛」なんて漢字一文字の名称を与えること自体、無理があるんだよな。
そのたった一文字に凝縮されてしまったものを解きほぐすために、たくさんの物語や音楽や絵画や宗教が作られてきて、今も作り続けられていて、そして百年後も作られているのだろう。
それに名前なんて付けてしまわないほうが、もっと体全体で感じられたかもしれないのに。

まだ十代だった頃、とんがっていた頃、世の中の8割くらいを憎もうと思えばできた頃、「愛」という言葉がひどく軽率で無責任に思えて、「愛は地球を救う」なんていうどっかの標語が大嫌いだった。
「地球はなぁ、人の愛なんぞ求めてへんわ、ばぁか」
と、黄色いTシャツを着て桜吹雪がどうとか歌ってる大人たちに毒づいていた。

ところが「若い女」の範疇からちょっと片足はみ出かけてる昨今、「愛はひょっとすると地球を救っちゃえるかも」、くらいは思えるようになってきたんだから、人間分からんもんだ。
うんそうだな、次はほっこりとした愛の物語を、書いてみよう。
でも「愛」って、同時に地球をぶち壊しちゃえるかもしれないと思う、けどね

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西さんの作品は「あおい」は読んだことあります。
そうですか・・『さくら』良かったですか。
では、またさっそく予約しよっと♪

ちなみに、どーでもいいことですけど
うちの息子の名前「あおい」っていいまする(笑)

>染谷水音さんへ
あおい君、かぁ。いい名前ですね! ちょうど今の時期にぴったり! (京都が長かったのですぐ葵祭りを連想してしまう)
可愛くて爽やかで緑の力強いにおいのする名前。
さすが水音さん、言葉を操る力の大きさを感じます。
あおい君、ますますいい響き。
早くいい男に育てて私に紹介してください(笑)

私が10代の頃は、ビックリするくらい丸かったなぁ。
物理的じゃないですよ。
精神的にですよ。精神的に。
優等生ヅラして、偽善者ぶって、点数ばかり稼いでるようなヤツでした。

昔は「愛」なんてものには何も期待してませんでした。愛より金でしょ、みたいな。
でも今では、「愛はなくちゃいけない。金はあるにこしたことはない。」と思うようになりました。年月を重ねた意味がちょっとはでてるのかしら…。

私も「あおい」という名前には昔から憧れてます。
私の場合は、娘ができたらつけたいな、と。
その前に嫁(以下略)。

>つきいちさん
うぅむ、歳を取るにしたがって「愛」を求めるようにできてるのでしょうか、人間って。
年々涙もろくなってるような気もしますしねぇ。このままじゃ常に涙垂れ流してる老犬のようになってしまうのではないか、などと思います。

「以下略」、笑いました。
あおいちゃんと出会えるのはいつの日か??

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坂井希久子

2008年オール讀物新人賞受賞。小説家の端くれのそのまた端くれ。
翼広げて大空にはばたくぞ! と言いつつ、まだたまごには「ひび」くらいしか入っておりません。
それでも、小説が好き。あと、着物も好き。
どちらも奥が深いことでございます。
死ぬまでには、真髄にちょこっとばかし触れたいな。

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